ここまで読んでくれてありがとう
と言うわけでパート3行っちゃおう。
今回は夢の効果の第2弾「創造の保育器」がリアル世界でどのように機能するのかを、神経学者のマシュー・ウォーカー博士とその仲間たちが様々な実験を通して調べているので、それを紹介していきたいと思いまっする。
最後には追加コンテンツとして「明晰夢」についても少し触れていますので、興味のある方はぜひ最後まで読んで見てね!
パズル実験
パート2で紹介した2つのアナグラム実験と記憶のネットワーク実験から、夢の状態の脳がいかに覚醒時やノンレム睡眠時と違いユニークな動きをするのかがわかりましたが、マシュー博士はここからさらに2つの仮説を導き出しました。
①覚醒時の脳に、ある問題に関する様々な情報を与えた場合、それを組み合わせてできる問題解決のためのアイデアが浮かびやすいのは、夢を見た後かそれとも覚醒時か?
②夢の内容は脳のクリエイティビティの質に関係するのか?
つまり、マシュー博士は以前の2つの実験で夢の脳がクリエイティブな働き方をすることはある程度実証できたので、次にその力が現実世界でどのように発揮されるのかを確かめようとしたのです。
まずは①の仮説についての実験です。
この仮説自体がなんだかよくわかりずらいと思うので例を出すと、、、
例えば私があなたにAとBの関係について説明したとします。
AはBよりも大きい。A>B
次にBとCの関係についても説明したとします。
BはCよりも大きい。B>C
そこで私があなたにAとCを見せて、どっちが大きいか聞いた場合あなたは簡単にAと答えますよね。
あなたは事前に知らされた2つの命題A>BとB>Cを組み合わせて、A>B>Cを作りそこからA>Cという聞いてもいない新たな命題を作り出しました。
これをもっと複雑にしたような複数の命題を被験者に渡した場合に、レム睡眠の夢状態の脳の方が覚醒時の脳よりもこの問題解決のアイデア(例 A>C)を生み出す力がブーストされるんじゃないか?というのが①の仮説で、それをテストしようという話です。
マシュー博士は、この実験ではハーバード大学で同僚のジェフェリー・エレンボーゲン博士に協力してもらいました。
実験では被験者に、それらの与えた命題の知識だけではなく、彼らがさらにその複雑な関連性について気付いていたのかのテストを行いました。
結果はレム睡眠で特に質の良い夢状態を得た被験者の方が、より複雑な関連性(例A>B>C>D>E>F)を見つけ、より大きな関連性のジャンプ(例B>E)についても対処可能であるというエビデンスが取れました。
また、60分から90分の昼寝をして夢を見た被験者についてもこれと同様の効果が現れたみたいです。
この結果についてマシュー博士は、「ジグソーパズルのバラバラのピースを持って寝て起きたらパズルが完成してるみたいなもんやな」って言ってました。
そしてこれが「知識 Knowledge」と「知恵 Wisdom」を分ける違いだとも。(知識というのは事実の記憶。一方で知恵はそれらを組み合わせてできる新たな概念を得ること。)
つまり寝ると知恵(アイデア)が生まれやすいということですかね。
そしてレム睡眠は「学習 Learning」ではなく「理解 Comprehension」だとも言ってました。これは今まで書いてきた「言語獲得 Language-Aquisition」の話にも通じるところがあって妙に納得できましたわ。
だんだんと「創造の保育器」の効果が実感として明確になってきている感じがしますね。
チートルール実験
そして①の仮説をより進ませた実験があります。
今まで説明してきた通り、レム睡眠には様々な情報から常識にとらわれない抽象的な新たなアイデアを生み出す力や複雑なルールなどを1晩で身につけてしまうような能力があります。
例えば生後18ヶ月の赤ちゃんがすんごく複雑なある言語の文法のルールを知って、寝た次の日にはそれを身につけていたりして、特に若い時期のレム睡眠の言語習得のために果たす役割はとても大きいと言われています。そしてこのような現象は大人にも現れることが確認されているみたいです。
このような、理屈を超えたような超常的な力の実証をしようとした実験が「チートルール実験」です。
言い換えると、与えられた情報を超える知恵(アイデア)を生み出す力についての実験です。
この実験はドイツのルーベック大学のウルリッチ・ワグナー博士の実験で、マシュー博士が毎回スタートアップ企業や、テックカンパニーなどで公演をする際に、従業員をちゃんと寝かせた方がいいよということを伝えるためによくする話みたいです。
マシュー博士もこの実験の被験者として参加したみたいですが、地獄のような実験でもう一生やりたくないと言っていました。
この実験では数百問もの数字にまつわる問題が被験者に出されて、さらにそれを事前に伝えられた、ある決められたルールに従って解くように伝えられます。
しかし、被験者にはあることが伝えられないままそのテストはスタートします。
そのこととは実はすべての問題には隠しルールがあって、それを使うとめっちゃ短い時間で問題を解くことができる仕組みになっていたのです。(チートルール)
このテストは2セッションに分かれていて、初めの数百問が終わってから12時間後に被験者たちはもう一度数百問の問題を解かされ、2セッション目の最後にチートルールについて気づいていたかを聞くというものになっていました。
1つのグループはテストの間のこの12時間を起きたまま、もう1つのグループは12時間中に8時間の睡眠を挟んで2回目のテストに臨みました。
結果はみなさん御察しの通り、起きたままのグループでチートルールに気づけたのが20%だったのに対して、レム睡眠を含む8時間寝たグループは60%がチートルールに気づいたらしいです。(3倍の効果!)
なんか問題が行き詰まった時って「一旦寝かせよう!」って言いますけど、これと同じ表現はほぼすべての言語にも存在するらしいです。(英語だとSleep on it)
確かに「一旦起こしておこう!」とは言わないし、昔の人はもうとっくに睡眠のパワーに気づいていたんですね!
メイズ・ランナー実験
最後の実験が②の夢コンテンツの仮説を証明する「メイズ・ランナー実験」です。
これはマシュー博士の盟友スティックゴールドさんが考えた実験で、コンピュータ上で再現されたバーチャルリアリティの迷路を被験者たちにトライアンドエラーで脱出してもらうという単純なものです。
被験者には様々なスタート地点が用意され、そしてスティックゴールドさんは所々に目印となるようなオブジェクトを配置しました。
被験者は最初のトライの後、あるグループは90分の昼寝をし、もう1つのグループは起きたままでビデオを見て過ごしてもらって、2回目の迷路にそれぞれ挑戦してもらい、1回目と比べてそのパフォーマンスに違いが出たかを計測するという流れです。
そして昼寝をしている被験者を時々起こして何か夢を見たかを聞いてそれを記録し、ビデオを見た被験者にはそのビデオの間に何か考えが頭をよぎったかを聞きました。
結果はというともちろん昼寝をしたグループの方が、配置された目印をより有効に利用し、より早く迷路からも脱出していました。
そしてここからが驚くべき結果なのですが、迷路に関する要素を夢で見た被験者は、同じだけ寝た被験者と迷路に関係ない夢を見た被験者に比べて10倍もパフォーマンスが向上していたらしいです。
迷路の要素を夢で見た被験者の1人はこう言いました「多分夢の中で迷路について考えていて、何人かの人をチェックポイントとして配置したんだ。たぶん。そしたらそっから何年か前に旅行に行った記憶が出てきて、コウモリの洞窟を見に行ったんだ。そんでその中がなんか迷路っぽくなってたよ」
もちろん実験の迷路にはコウモリや他の人々は出てきません。
しかしこのことからわかるのは、どうやら夢は新たに得た経験を今まで得た経験の記憶と組みわせて、新しいアイデアなどを生み出そうとする性質があるらしいってことです。
ノンレム睡眠は記憶の定着に大きく関与していると言われていますが、レム睡眠はそれをさらに1段間上の概念へと昇華させるための装置(創造の保育器)として働いているっぽいですね。
「でもショートスリーパーと言われたエジソンについてはどう説明するのか」という反論をしてくる人がいると本では書いてありましたが、マシュー博士曰く、そもそもエジソンが本当にショートスリーパーだったかどうかはわかっていないらしいです。ただ一つ確かなことは、エジソンはいつも昼寝をしていたらしいです。しかも、昼寝するときは、床にフライパンを逆にして置いて、鉄のリングを2、3個手に持った状態で椅子に座り、寝て手から落ちたリングがフライパンに当たった音で起きて、頭に浮かんでいたアイデアをすぐにメモできるように用紙とペンを机の上に常に準備していたそうです。
夢のパワーと明晰夢について
というわけで今回は夢の持つ2つ目の効果「創造の保育器」の完結編でした!
本に書いてあることを説明しようと思ったら、色々細かく説明したくなっちゃってどんどんどんどん文字数が伸びていっちゃって、結果3パートに別れちゃいました、、、
最後に余談ですが、みなさん「明晰夢」って知ってますか?
これは夢の中で今夢を見ているって気づける状態のことと、なんの夢を見るかをコントロールできる状態のことをいうのですが、世界にはこの明晰夢を意識的に見れる人たちがいるらしく、実際にそれを実験して明晰夢を操れる人は存在することが化学的に証明されています!
どうやって実験したかというと、明晰夢を見れる被験者たちを集めて、まずは右手と左手を交互に片方ずつ握ってもらい、その時の脳の動きをMRIでスキャンしておきます。
そして彼らに寝てもらって、夢の中で同じように右手と左手を動かしてもらって、MRI上で脳の動きが同じになるのかを計測し、被験者が嘘を言っていないかどうかを確かめるという実験です。
寝てる時は体は動かせなくなりますが、 「レム睡眠 REM(Rapid Eye Movement)-Sleep」という名前の由来からもわかる通り、レム睡眠中は目を動かすことができるので、例えば夢を見たら目を左に3回、右手を夢の中で握る時は目を右方向に2回動かすなどの合図を最初に決めておき、その合図に従って脳の状態を計測しました。
結果は夢を見ているときに手を握ったときも、起きているときに手を握ったときの脳のエリアと同じエリアが動いていたそうです。
なんか他にも色々もっと細かい実験もしたみたいですが、とにかく明晰夢を見れると自称する被験者たちが言っていることは本当だったということは一応化学的に実証されているみたいです!
うん。なんか夢って色々すごいね!柳沢慎吾が言ってた「いい夢見ろよ!」ってこの夢のパワーに気づいていたからこその発言だったのかもね!(絶対違う)
それじゃみなさんもいい夢見ろよな!